方針と手順
方針とは、意図して実行する行動指針、すなわち好ましい慣行のための指針である。方針は不変なものではなく、法令の改正や時代の動向、またサービス内容の変更に応じて常に更新と見直しを行わなければなりません。
方針書は実効性のある文書であり、これは保護者や検査官に提示するためだけに用意するものではありません。
方針書方針書には業務において従わなければならない手順書が必要となります。そうした手順書や指針を策定する理由、およびそれが保育者の実践を発展させ、それを考察する上でどのように役立つかを理解する必要があります。
重要用語 |
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方針書 - 子どもの保育に関することなど、具体的な条件を定める合意文書 手順書 - 方針を実行するために必要な方法または行動指針を記したもの |
適切な実践のキーポイント |
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良い方針書は以下の条項を反映したものでなければならなりません。
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良い手順書は以下の条項が記載されたものです。
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考察 |
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段階的に手順書を作成する際は、物語を話すように考えると役立つ場合があります。
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文書管理に関する福祉の要件は、保育環境を安全かつ効率的に管理し、子どものニーズを満たすために方針と手順を維持しなければならないとしています。
方針書は、子どもの保育を始める前に保護者が目を通して署名できるよう用意しておかなければなりません。
さまざまな方針を作成することができますが、複雑にする必要はありません。明快な言葉を使用し、読みやすく、見やすくレイアウトされた簡潔なものにする方が好ましいです。
またトラブルを未然に防ぐためにも、苦情に関する方針書も文書で作成し、保護者に伝えなければなりません。
NCMAの提言 |
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誤解やトラブルを避けるため、方針はすべて必ず文書化するのが好ましいです。 |
必要な書類は各自治体によってことんる場合があるため、方針書を含めどういった書類が必要なのかをあらかじめ確認しておく必要があります。
またキャリアセンターでは必要な書類に対するアドバイスやサポートも行っており、キャリアセンター会員は自治体への確認を行ったのち、会員相談窓口にて必要な書類に対するアドバイスを受けることができます。
必要な方針の数に決まりはありませんが、最低限以下に関しての方針が必要であると考えなければなりません。
- 苦情に対しての方針
- 事故、事件、疾患および緊急事態を含む、健康と安全に関する方針
- 日々の保育活動や行動に関する方針
- 安全確保に関する方針
- 機会均等に関する方針
重要用語 |
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事故 - 他者に苦痛や傷害を負わせるおそれがある予期せぬ、偶発的な不運な出来事、災難または過ち 事件 - 発生する事象、出来事(より軽微な、またはより重大な事象) 疾患 - 病気の症状、病弱な状況 緊急事態 - 早急な対処が必要な危機または状況 行動 - 個人の振る舞い方、または遂行する活動 |
これらの方針は評価基準1.2で明確に言及されており、タスク2に含まれている。
この他に策定することが望ましい方針として以下が挙げられる。
- 守秘義務
- 加入の承認(機会均等の方針に含めてもよい)
- 特別なニーズと受け入れ(機会均等の方針に含めてもよい)
- 遠足と旅行(健康と安全の方針に含めてもよい)
- 医薬品の与薬、日焼け止めローションによる保護(健康と安全の方針に含めてもよい)
- いじめ(行動の方針に含めてもよい)
- 保護者との連携
- 学習と遊び
- 迷子
確認事項 |
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方針の記述の取りかかりで苦労している場合は、全英チャイルドマインダー協会のWebサイトに方針のサンプルが公開されており、それをダウンロードしてそれぞれの状況に合わせて修正し使用することができます。同協会のWebサイトへはホットリンクのセクションからアクセスできます。もしくは、すでに開業している先輩活躍チャイルドマインダーにアドバイスを乞うのも一つの方法です。 日本では、日本チャイルドマインダー協会のキャリアセンター会員サポートにて相談窓口が用意されています。 |
NCMAの提言 |
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自治体によっては方針書の策定や必要書類の手配などについて、相談窓口を設けているところもあるので、こうした窓口に相談してみるのもよいでしょう。 |
方針書の記述方法
方針をどのように記述するかは個人的な好みの問題であり、決まった書き方はありません。ただし考慮すべき重要な点がいくつかあります。
- 何についての方針か。
- 明確な冒頭の文言はあるか。例えば、安全確保に関する方針の場合は「登録チャイルドマインダーとして、私には保育するすべての子どもを常に保護する義務があります」といった一節を記載しているか。
- 次に方針は何を、いつ、どのような方法で行うかを述べているか。
- 該当する場合、どのような状況において方針に定める行動を実施するか、いつ見直しを行うのかについても言及しているか。
保護者やその他の関係者との方針の共有
先に述べたように、方針は実効性を有する文書です。したがって子どもを含む関係者全員で共有し、話し合い、監視し、見直さなければなりません。
年長の子どもが、例えば行動の管理、安全、リスク、挑戦しがいのある遊び、外出時の自立などに関する方針を策定することは好ましい慣行といえるでしょう。
保護者に方針書や手順のファイルを渡したのだから、保護者は当然、それを読むはずだと想定してはいけません。これについては多くの人が説明書を最後まできちんと読んでいなかったり、またその内容を記憶していなかったりということからも推察できると思います。
子どもは自分が今日、何をしたかを保護者と話すことも多く、その内容が保護者からの貴重なフィードバックとなることが多々あります。このフィードバックは保育者の保育方法にも影響を与え、有用な情報を提供し、それが方針に反映されていくこともあるのです。
同様に、子どもは保育者のサービスについて重要な情報を提供することができます。意識して子どもの言葉に耳を傾けると、子どもは好きなことや嫌いなことについて話すことがあります。これは、例えば子どもの行動を管理する場合において、子どもが不公平感を感じているときなどに、こうした問題について話し合う良い機会となります。
すべての子どもの個人的なニーズについて話し合うことは、年長の子どもがニーズ、相違点、感情および権利に対する認識を高める上でも役立ちます。
方針書、手順書および指針については、あるいはそれらのいずれかを専門機関に開示することを求められることがあります。管轄の自治体からは、特に行動の管理や子どもの健全な生活を守る方針など、いくつかの方針の提示を求められる場合があります。特別なニーズや難しい問題を抱える子どもを保育する場合、医療や教育に携わる他の専門家と方針を共有することが適切な場合があります。また好ましい行動を促すのに有効な子どもの行動管理戦略を実行する場合は特に、学校など、他の施設と方針を共有することが役立つ場合があります。
重要用語 |
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好ましい行動 - 社会的および道徳的に容認できるとされる個人の振る舞い方 |
保育業務従事者における共通の基礎技能および知識の1として「情報の共有」が挙げられます。これは情報をどのような方法で、いつ共有するか、情報の共有と保持に関する保育者の責任、および法律が与える影響を理解することに関わってきます。方針は共有しなければなりません。そうしなければ方針の監視、評価および見直しを行うことはできません。
方針の監視、評価および見直し
日本チャイルドマインダー協会では、すべての方針と手順について少なくとも年に1回は見直しと評価を行うこと推奨しています。
家庭的保育者の多くは、それよりも高い頻度で方針の監視および評価を行っています。
例えば、法律が改正されたときや、新しい子どもの保育を始めたとき、業務時間の変更があった場合、そして言うまでもなく、何かがあまりうまくいっていないことが明白になった場合など、その都度見直しと評価を繰り返し行っていくことが大切なのです。
適切な実践のキーポイント |
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方針の監視、評価および見直し - 方針を最後まで読見直したり日付の変更を行うだけでなく、以下を行う必要がある。
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健康と安全に関する方針と手順
先に概略を述べたように、健康および安全に関する方針と手順には事故、事件、疾患および緊急事態への備えを含める必要があります。
事故とは予期せず、偶発的に発生する事態で、意図的に引き起こされるものではありません。事故は防ぐことができます。少なくともその影響を制限することは可能です。登録チャイルドマインダーとしての責任は事故の発生を防ぐよう努めることがありますが、万が一事故が発生した場合に、どのように行動すべきかを把握しておかなければならなりません。
方針が不可欠である理由はまさにここにあります。事故と緊急事態とを1つの方針にまとめてもよいでしょう。
事故と同様、緊急事態も予期せず発生します。保育者のみに関わることもあれば、複数の人が巻き込まれることもあります。緊急事態は事故の結果、発生することが多いとされています。事故や緊急事態を予測することはできなくても、それに備えることは可能です。最も有効な対処方法は、最悪の事態に備えるために個人の緊急時計画または方針を策定することです。こうした方針は冷静さを保ち、事態への対応能力を高める上で役立つのです。
ケーススタディー:行動方針の見直し |
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メイはチャイルドマインダーとして働いており、8カ月の乳児1人、3歳児1人、4歳児1人、および7歳以上の子ども2人を保育している。2年前チャイルドマインディングを始めた時に行動の管理に関する方針を策定しました。しかしその後方針を再検討しておらず、現在は2人の年長の子どもが学校に入学するなど、以前とは状況が少し変化している。
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・個人の緊急時計画
個人の緊急時計画とは厳密に言えば自分個人のもので、自分自身に役立たなければならない計画です。自分の身に何らかの事態が生じた場合に、他の人が従うことができるよう個人の緊急時計画を作成しておくことが好ましいです。これは実質的に自分自身の方針でもあります。自分自身の方針も定期的に見直し、必要に応じて変更していかなければなりません。
子どもの最新状況を記録することは特に重要です。日本チャイルドマインダー協会は、保育者と保護者が住所、電話番号、緊急連絡先、医療に関する詳細事項、その他の役立つ情報を記入できるフォームを用意しています。独自のフォームを作成してもよいですが、子どもの安全を確保するため、子どもについて把握しておく必要のある詳細事項をすべて必ず含めるようにしなければなりません。
考察 |
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危険性評価を行う際は窓やドアロック、子どもの転落を防止する階段ゲートは、忘れずに確認しましょう。 |
頭の中で緊急事態に対する「シミュレーション」を行うことが好ましい実践でしょう。それは真っ先に実行すべきことを計画するのに役立つほか、シミュレーションをすることで自信が深まり、実際の緊急事にも子どもを安心させることができるようになります。緊急時の避難訓練についても定期的に行う必要があります。
適切な実践のキーポイント |
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個人の緊急時計画
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事故、疾患および緊急事態に関する方針書には、以下の情報も含めなければならなりません。
- 病児保育について
- 医薬品の与薬について
- 医薬品や医療機器などの安全な保管について
行動
ほとんどの保護者は子どもに行動の境界線を定める必要性を認めていますが、保育者の考えと保護者の考えは必ずしも一致しません。
それが方針を必要とする重要な理由の1つでもあります。
行動に関する方針は、行動に関する保育者の考えと、家庭的保育環境で容認できることとできないことを具体的にに表すものでなければならなりません。
保育者は方針を保護者にしっかりと説明し、同意を得なければなりません。行動に関する方針は、保護者が家庭的保育環境にいるかどうかを問わず、保育する子どもにも適用されることに留意することも重要です。
方針は好ましい行動を促すことに重点を置き、必ずしも子どもの行動が「容認できない」内容についてや、またそうした際の処罰といった点に重点を置くべきではありません。
以下は現役の登録チャイルドマインダーが策定した行動の管理に関する方針の例です。
自分自身の方針にはどのようなことを含めようと思いますか。
〇〇園 管理責任者:〇〇 〇〇(登録チャイルドマインダー) 20〇〇年〇月〇日 行動の管理に関する方針 当保育施設はいくつかの「規則」を設けていますが、当方でお預かりするすべてのお子さまがその規則を受け入れ、保護者の皆様が下記の方針の実施についてご理解、ご支援いただけるようお願いいたします。
当施設でのルールは、次の通りです。
好ましくないと思われる行動が見られたときはすべて記録し、お子さまに対して懸念が生じた場合は、そうした懸念について保護者の方々と適宜ご相談いたします。 新しいお子さまが当施設に入所したとき、あるいは保護者から要請があったとき、また法令や条例の改定に準じ、方針の見直しを行います。 この行動管理に関する方針についてご意見・ご要望がございましたら、お子さまの送迎の際にお声をかけていただくか、TEL:〇〇〇〇-〇〇〇〇までご連絡ください。 20〇〇年〇月〇日 |
考察 |
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上記の方針に目を通してください。
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安全確保
保育者は常に保育する子どもを危険から免れるために最善を尽くすことは明白です。しかし、好ましい慣行をすべて実践しているにもかかわらず、子どもを危険や虐待から保護する必要性が生じることがあります。そのため、安全確保に関する明確な方針を策定することが必要不可欠なのです。
自治体によっては、登録前または登録後に保育者が参加できる安全確保のための講習や研修を定期的に開催しているところもあります。
こうした自治体主導の講習や研修に積極的に参加することで、より具体的で的確な安全確保の方針を策定することができるでしょう。
適切な実践のキーポイント |
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あなたの方針と手順 - 厚生労働省や所属する自治体の基準要項を遵守し、以下に言及しなければなりません。
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機会の均等
これは子どもとその家族を個人として扱うことに関わってきますが、全員を同じように扱うということは実質的には不可能です。なぜなら子どもは皆それぞれ異なる個性、欲求、関心事および能力があり、それらを尊重していかなければならないからにほかなりません。
包括的な保育環境とは、子ども(およびその家族)が評価、歓迎、信頼および尊重されていると感じ、すべての子どもが等しくそれぞれにふさわしい範囲で設備を利用し、活動に参加する権利を有する環境なのです。
重要用語 |
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受け入れ - 参加を妨げる要因や障害を認識、理解した上でそれを克服するプロセス |
方針を策定する際、すべての子どもの個人的なニーズをどのようにして満たすかを考える必要性があります。これにはすべての子どもを受け入れ、支援し、尊重できるよう、保育環境を調整しなければならないといった難しいケースも想定されます。例えば、異なる家族の背景を反映した幅広いリソースを用意するか、子どもが保育環境において可能なかぎりの経験をできるよう適度な調整を加えることが必要な場合もあり得るのです。
確認事項 |
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方針に含めなければならない法定の指針について、どのようなことを網羅する必要があるのかを確実に理解しましょう。 |
評価への課題 |
評価基準1.2 |
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以下の事項について方針と手順を設定し、それを遂行する方法を述べよ。
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以下の事項について方針と手順を作成し、それぞれの方針の実施方法について述べよ。 4つの方針と4つの手順を策定する必要がある。
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方針とは、保育環境における特定の状況の下で何を行うかを記述したものであることに留意しましょう。 手順とは、方針を実行する具体的な方法となります。 方針の作成方法に関するセクションをもう一度確認しましょう。方針と手順は複雑にする必要はありません。複雑になるほど紛らわしくなり、誤解が生じるおそれがあります。誤解を避けるには、率直な言葉で簡潔に述べるようにしましょう。 方針と手順は保育者独自のものとなります。それはファイルに綴じて保管しておくだけのものでなく、自分にとって有益で、重要な意味を持ち、役立つものでなければなりません。 これは今後あなたが保育士や看護師などの資格取得を予定しているかどうかにかかわらず、上述の要領で方針と手順を作成しなければなりません。 |