現行の法規について
チャイルドマインダー発祥の地であるイギリスでは、子どもと青少年に関するさまざまな法律が定められています。
なかでもグリーンペーパー(政策決定のたたき台として政府が提出する提案書)における「すべての子供が大切である」に由来し施行された児童法が最大の影響力を持っています。
同法では子どもについて以下の5項目の成果を定めています。
- 健康であること
- 安全であること
- 楽しみ、成果を達成すること
- 前向きに貢献すること
- 経済的に満足できる生活を実現すること
重要用語 |
---|
法律 - 議会制定法(Acts of Parliament)に基づいて可決された法律、規則および規制 |
これらの成果は検査の基盤となるため、これに基づいた実務を実践しなければならなりません。その他の関連する法律の概略を以下の表2.1にまとめてあります。
法律 | 要旨 |
---|---|
性差別禁止法(Sex Discrimination Act、1975年) | 性別を理由とした個人の差別の禁止を定め、機会均等委員会(Equal Opportunities Commission)が支援する。 |
人種関係法(Race Relations Act、1976年)2000年改正 | 機会均等を促進し、各施設は方針を策定して監視と評価を行わなければならない。 |
教育法(Education Act、1981年) | 以下を初めて公式に承認 子どもの教育に関する保護者の権利 特別な教育的ニーズ |
公衆衛生(疾病管理)法(Public Health (Control of Disease) Act、1984年) | 特定の感染症の通知および除去期間を定める。 |
教育改革法(Education Reform Act、1988年) | 全国共通教育課程(National Curriculum)を学校に導入 |
児童法(1989年) | 「子どものニーズは最重要である」という語句に要約される子どもの権利を最初に認めた英国法 |
教育法(Education Act、1993年) | 国務大臣に特別な教育的ニーズを有する子どもに関する施行規則の公表を義務づける。 2歳未満の子どもを持つ保護者は子どもの正式な評価を求める権利を有する。 |
特別な教育的ニーズを有する子どもの特定および評価に関する施行規則(Code of Practice for the Identification and Assessment of Children with Special Educational Needs、1994年、2001年修正) | 特別な教育的ニーズを有する子どもに対する地方教育当局と学校理事会の責任に関する指針 |
傷害、疾病、危険事態発生報告規則(Reporting of Injuries, Diseases and Dangerous Occurrence Regulations、1995年) | 報告を義務づける特定の事故と事件を法律で規定する。 |
1995年食品安全(一般的な食品衛生)規則(Food Safety (General Food Hygiene) Regulations) | 基本的な衛生要件を規定(登録チャイルドマインダーにはまだ適用されないが、基本的食品衛生管理認定(Basic Food Hygiene Certificate)の取得が望ましいと考えられる)。これは登録プロセスに含まれる。 |
家族法(Family Law Act、1996年) | 子どもの安全確保に関する指針を定める。 |
障害者差別禁止法(Disability Discrimination Act、1995年) | イングランド、スコットランド、ウェールズおよび北アイルランドにおける障害を持つ個人の権利擁護を目的とする。 |
教育法(Education Act、1997年) | 1994年以降のすべての法律を1つに統合。 実施規則(Code of Practice)に定める子どものニーズの特定と評価の法的プロセスに期間を設定する。 |
救急救命法実施規則(Code of Practice for First Aid、1997年) | 訓練を受けた救急救命士の配置と救急救命法の実施に関する指針を定める。 |
人権法(Human Rights Act、1998年) | 欧州人権条約(European Convention on Human Rights)に定める要件に従い、2000年に制定。 |
児童保護法(Protection of Children Act、1998年) | 子どもと接触する職務に不適格と見なされる人物のリストの維持を義務づける。 |
データ保護法(Data Protection Act、1998年) | 個人の同意なく機密情報や個人情報を伝達することを禁じる。子どもの場合は、保護者の同意を得なければならない。 |
特別な教育的ニーズと障害法(Special Educational Needs and Disability Act、2001年) | 障害を理由とする差別から子どもを守り、各施設は子どものニーズと権利を満たすため設備を適切に調整しなければならない。 |
健康有害物質管理規則(COSHH、2002年) | 洗浄液など、潜在的有害物質の特定、保管および使用に関する法 |
健康保護局に関する法(Health Protection Agency Act、2004年) | 国民の健康保護を任務とする全英の公的機関である健康保護局(Health Protection Agency)を設置 |
児童法(2004年) | グリーンペーパー「すべての子どもが大事」に基づき、すべての子どもについて5項目の成果を定める。 健康であること 安全であること 楽しみ、達成すること 前向きに貢献すること 経済的に満足できる生活を実現すること |
児童ケア法(Childcare Act、2006年) | イングランドにおける就学前教育基礎段階(Early Years Foundation Stage)の導入 |
日本では子どもと青少年に関する法律や条例として、児童福祉法や青少年保護育成条例、また平成24年に施行された子ども・子育て支援法などがあげられます。
児童福祉法の総則では
- 全て児童は、児童の権利に関する条約の精神にのつとり、適切に養育されること、その生活を保障されること、愛され、保護されること、その心身の健やかな成長及び発達並びにその自立が図られることその他の福祉を等しく保障される権利を有する。
- 全て国民は、児童が良好な環境において生まれ、かつ、社会のあらゆる分野において、児童の年齢及び発達の程度に応じて、その意見が尊重され、その最善の利益が優先して考慮され、心身ともに健やかに育成されるよう努めなければならない。
といったことが記されており、子どもの養育、生活保障、愛護、保護、また健やかな成長及び発達、自立などにおいて法律で定められています。
関連する法律や条例等の概略を以下の表にまとめてあります。
憲法・法律等 | 要旨 |
---|---|
日本国憲法第14条 | すべて国民は法の下に平等であって、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的または社会的関係において、差別されない。 |
教育基本法(第1章・第4条) | すべて国民は、ひとしく、その能力に応じた教育を受ける機会を与えられなければならず、人種、信条、性別、社会的身分、経済的地位又は門地によって、教育上差別されない。 |
感染症法 | 感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律 |
学校教育法 | 小学校、中学校、高等学校、大学、盲学校、聾学校、養護学校及び幼稚園を対象とした法律 |
子ども・子育て支援法 | 国内での急速な少子化、また家庭及び地域を取り巻く環境の変化に合わせ、一人一人の子供が健やかに成長できる社会の実現を目指し、その支援を行うために施行された法律 |
児童福祉法 | 児童が適切に養育され、保護され、健やかに成長・発達ができるように施行された法律 |
児童虐待防止法 | 児童に対する虐待の防止、予防、早期発見および虐待児童の保護、自立支援を目的として施工された法律 |
個人情報保護法 | 個人情報の適正な扱いについて定めた法律 |
児童福祉施設の設備及び運営に関する基準 | 保育施設の運営にあたり、その広さや調理室、トイレの設置など、様々な基準について制定された条例 |
消防法 | 火災の予防、警戒、鎮圧により国民の生命、身体および財産を保護し、火災又は地震災害による被害の軽減を目的として定められた法律 |
考察 |
---|
国連子どもの権利条約(UNCRC)は1989年に採択され、英国は1991年に同条約に批准して締約国となりました。これは法律ではありませんが、国連子どもの権利条約の精神は、近年における子どもに関する法律や条令の多くの基礎となっています。 この条約は子どもと18歳未満の青少年に独自の権利を保障しています。 国連に加盟する国のすべての子どもに対して、子どもの権利条約が定める54項目の条項が適用されます。これらの条項は、基本的にすべての子どもが尊重されなければならず、子どもの利益が最も重要であることを明記しています。 54条のうち、保育実践者に主に影響する7つの条項を表2.2にまとめました。第7条は先の子どもの権利宣言(Declaration of the Rights of the Child、1959年)に基づいています。これらの条項は子どもへの関わり方を考える上で基準になるという点において家庭的保育者に関連しており、その内容も非常に重要なものとなっています。 すべての子どもは特別で、それぞれが唯一無二の存在であり、尊厳と敬意をもって扱われる権利を有することが強調されています。
|
条項番号 | 要旨 |
---|---|
第2条 | 締約国は、その管轄の下にある児童に対し、児童又はその父母若しくは法定保護者の人種、皮膚の色、性、言語、宗教、政治的意見その他の意見、国民的、種族的若しくは社会的出身、財産、心身障害、出生又は他の地位にかかわらず、いかなる差別もなしにこの条約に定める権利を尊重し、及び確保する。 |
第3条 | 児童に関するすべての措置をとるに当たっては、公的若しくは私的な社会福祉施設、裁判所、行政当局又は立法機関のいずれによって行われるものであっても、児童の最善の利益が主として考慮されるものとする。 |
第12条 | 自己の意見を形成する能力のある児童がその児童に影響を及ぼすすべての事項について自由に自己の意見を表明する権利を確保する。この場合において、児童の意見は、その児童の年齢及び成熟度に従って相応に考慮されるものとする。 |
第13条 | 児童は、表現の自由についての権利を有する。この権利には、口頭、手書き若しくは印刷、芸術の形態又は自ら選択する他の方法により、国境とのかかわりなく、あらゆる種類の情報及び考えを求め、受け及び伝える自由を含む。 |
第16条 | いかなる児童も、その私生活、家族、住居若しくは通信に対して恣意的に若しくは不法に干渉され又は名誉及び信用を不法に攻撃されない。 |
第28条 | 締約国は、教育についての児童の権利を認めるものとし、この権利を漸進的にかつ機会の平等を基礎として達成するため、(d)すべての児童に対し、教育及び職業に関する情報及び指導が利用可能であり、かつ、これらを利用する機会が与えられるものとする。 |
第31条 | 締約国は、休息及び余暇についての児童の権利並びに児童がその年齢に適した遊び及びレクリエーションの活動を行い並びに文化的な生活及び芸術に自由に参加する権利を認める。 |
評価への課題 |
評価基準1.1 |
---|---|
以下の事項について方針と手順を設定し、それを遂行する方法を述べよ。 【保育・教育顕彰評議会タスク1】情報シートを作成する。 Part1:在宅保育に関わる現行法律の概要をシートに記入する。
この単元を保育・教育顕彰評議会で履修していない場合でも、評価者と専門的な話し合いを行うなど、この評価基準の証拠を提示する方法は他にもある。 |